集団就職世代の想い出といま

北東北の奥深い山の集落から15歳の誕生日を迎えたばかりの少年が大都会の町工場に就職した。それから60年ほどが過ぎたいま、さまざまな想い出とこれからを綴る。

野蚕ーヤママユガ科の仲間たち

 素人なりにカイコヤサン(野蚕・ワイルドシルク)について触れておきます。

 カイコは桑の葉っぱを食べて成長し、繭を作ります。繭から生糸ができ、絹織物や製品がつくられ、人々の生活にとって欠かせないものです。その歴史は古く、人々は「おカイコさま」といったように尊いものとして扱って来ました。

 ずっと昔の人たちは、カイコの特徴を知り、自分の家で飼育するようになったのでしょう。現代にいたるまでカイコは飼育されながら繭を作り、シルク製品を人々に提供しています。ですからこの種を「家蚕」(かさん)と呼んでいます。

 これに対して、自然に生育しながら繭を作る昆虫がいます。研究者たちはこの種類を「家蚕」と区別するために「野蚕」(やさん)と呼んでいます。この「野蚕」にはとても多くの仲間がいますし、なかには家の中で飼育されるものも見られますが「カイコ」のように大量に飼育されたり、生糸を安定生産することはできません。

 わが国で「野蚕」としてよく知られるのは、①「天蚕」(テンサンまたはヤママユ)です。クヌギやコナラ、カシワなどの葉っぱを食べて成長し、緑色の繭を作ります。繭からは生糸が採れ様々な製品を作ることができます。生糸の輝きや色合いが魅力的でとても高価な製品になります。ですから愛好家は施設を作ってグループで飼育する例が見られます。

 またわが国に見られる②「ウスタビガ」も知られています。この昆虫はクリやクヌギ、コナラ、ケヤキの葉っぱを食べて成長します。緑色の繭を作りますが生糸を引き出すことは難しいようです。そのために繭を飾り物にして販売することがあります。それでも習性を考えながら飼育に挑戦している例も報告されています。

 中国が原産地でよく知られるのは③「サクサン」(柞蚕)です。クヌギやコナラの葉を食べて成長し褐色の繭を作ります。生糸も生産できますので中国では飼育も容易にできるようです。ただカイコの絹とは違うのでシルク自体は「安物」扱いされてしまいます。また「さなぎ」を食べるために飼育する例も見られ、生糸ができないこともあるようです。 

 インドや東南アジアで見られる④「エリサン」(恵利蚕)もよく知られます。ヒマやシンジュ、キャッサバの葉を食べて成長し、白い繭を作ります。生糸はできますが長い一本の糸ではないようです。製品も作られ販売されています。比較的容易に飼育できるということで、かつてはわが国でもビジネスとして大量飼育されたことがあるようです。当方もドレスシャツを着用していますが、色合い着心地とも満点です。

 インドといえば、⑤「タサールサン」(またはタッサーシルク)と⑥「ムガサン」(ムガシルク)があります。「タサールサン」はサラソウジュやコバテイシ、ブナ科のコナラを食べます。繭は大きく褐色で、インドでは織物として利活用しています。また「ムガサン」はタブノキやイヌガシ、コナラを食べて成長し大き目で茶褐色の繭を作る。金茶色の生糸ができますので、衣服や装飾品として多用されます。双方とも飼育が盛んですが生糸として輸入することは難しく生地や製品として輸入され、愛好家の間では洋服やスカーフ、パラソルなど人気となっています。 

 インドネシアほか東南アジアに生息する⑦「クリキュラ」もよく知られています。アボガドやカンラン、ケドンドンの葉を食べます。ゴールドで隙間のある薄い繭を作ります。紡ぎ糸を作り織物にすることができます。かつて和服用の帯が作られて話題になりました。

 ほかに中国やベトナム、インドなど広い地域で見られる⑧「テグスサン」(またはフウサン)がクスノキや柳を食べて育ちます。連想できるようにこの繭から魚釣りに利用したテグスが作られたそうです。漁網も作られたようです。

 インド、中国、日本で見られる⑨「ヨナクニサン」があります。巨大な蛾のひとつとしてよく知られます。沖縄県では天然記念物に指定し保護しています。繭は大きめですが生糸の確保には問題もあり一般的な製品は無理のようです。

 わが国で、サクラ、クリ、カエデ、アセビなどを食べて成長する⑩「オオミズアオは蛾の色模様が特徴的でよく知られます。

 さらに桑の葉を食べる⑪「クワコが、中国や朝鮮半島、日本に見られます。桑の葉を食べることから「カイコ」のもともとの先祖との説もあります。カイコも繭も小さく、改良・飼育化された「カイコ」とは区別されています。

 これらは「野蚕」の中でもヤママユガ科」のグループに属します。ほかにも「〇〇科」と言われるグループが無数にいます。同時に「野蚕」ですから食樹と気候さえ整えば様々な繭を作る昆虫が生息できるわけで、研究が進めば新たな「野蚕」が発見できることになります。さらなる利活用も開拓できるかもしれません。