集団就職世代の想い出といま

北東北の奥深い山の集落から15歳の誕生日を迎えたばかりの少年が大都会の町工場に就職した。それから60年ほどが過ぎたいま、さまざまな想い出とこれからを綴る。

中国進出の勢いといまを想う

 定かではないが30年ほど前のこと、神奈川県にあるアパレル企業の本社工場を訪ねたことがある。なかなかのやり手として知られている2代目社長にお会いするためであった。

 社長は面会間もなく「こないだお前んとこの若いのが来たけど、なんかでかい面して俺に説教して帰ったよ。もう来なくていいからそう伝えておいてくれ」という話が飛び出したのには驚いてしまった。その若い者は、当方の勤務先ではなかなか鼻息が荒く勢いのある若者として目立っていた。そのような自信から2代目社長を前に持ち前の調子でズバリと意見を述べたのだろう。

 そのころ社長は、工場の中国進出を具体化していた。すでに中国では労働者の賃金が高騰しはじめマスコミなどでその辺の事情が伝えられていた。多分若い者は、中国への工場進出は慎重にするべきだといった意見を述べたのではないかと推測する。社長にしてみれば、具体的に推進している事業に他人でもある若い者から意見されたことに反感を覚えたことだろうと思う。

 実際に社長は、中国投資を重ねそれなりの成果を上げてきたのである。

 約30年後の現実に戻り、先の「製造業の空洞化」を想いおこしたわけである。

 当時は、中小企業にとっても中国進出は生き残る道であったことに間違いない。それがユニクロに代表されるような新しい業態が成功するようになり、そのような業態改変に乗り遅れると直ちに破たんしてゆく。そんな激変の時代になりつつあるようだ。

 残念ながら、社長も新しい社長にバトンタッチしたが、今から10年ほど前に会社は終止符を打ったようである。その原因は中国進出であったかどうかはわからない。まったく別の要因かもしれない。

 先の連載記事を読みながら、グローバル化、技術移転、流通の激変、資本の論理などを考えた。同時に若いころにやり手社長に面談した際の1コマを想い出した次第である。想い出よありがとう。